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感謝を込めて 森さん家の演奏会①

2021年8月、お盆前後の長崎県を襲った長雨で、雲仙温泉では複数の土砂災害が発生し、長年雲仙温泉の観光に尽力してこられたご家族3人の尊い命が奪われました。

あれから1年経った、2022年8月12日、亡くなった森保啓さん、妻の文代さん、そして長女・優子さんの残された妹さんたち2人が、感謝の思いを込めた演奏会を開きました。

2回に渡って、その様子を記録に残したいと思います。


【災害でお世話になったさまざまな方へ感謝を込めて】

小雨が降る2022年8月12日。

旧雲仙小中学校をリニューアルさせた「雲仙BASE」で、「森さん家の演奏会」は開かれた。

開いたのは亡くなった森家の残された2人の娘さん。

次女・啓子さんは、母・文代さんが好きだったコーヒーを極めるため、焙煎士として東京のコーヒー専門店で働いている。

三女・真衣子さんは音楽が好きな両親や姉・優子さんが弾いていたことがきっかけでトランペットを始め、強豪校で中・高・大と研鑽を積んでいて、優子さんも好きだった写真の仕事に携わっている。

そんな2人が1年前の災害を忘れないため、彼女たちができることで感謝の気持ちを込めて開いた。

彼女たちを後押ししようと、優子さんと観光協会時代の同僚や上司、優子さんと仕事で知り合った人、親しかった人たちが集まった。

私もこれまでの旧雲仙小中学校での写真展の開催の経験から、写真の展示の方で声をかけていただき、啓子さんがコーヒーを提供する元々は職員室だった場所で家族写真や友人たちとの写真を展示する大役で、参加させてもらった。(※詳しくは→小さな小学校の写真展③

会場の装飾は優子さんとも親交があった南島原市のお花屋さん「水と木」のオーナーで、雲仙BASEの交流コンシェルジュの飛永みずきさんが、優子さんが最後に文代さんに送った「ひまわり」を中心に、雲仙市や南島原市の花農家さんたちから集めて、会場を華やかに装飾した。

啓子さんがコーヒーを提供するカウンターや入口、写真の展示の場所にも小さな花が添えられ、決して暗い気持ちにならず、前向きに生きて行こうという明るい雰囲気を作っていた。

演奏会には150人が参加した。2人の友人、両親の友人、地元の人・・・雲仙BASEの立ち上げに関わっていた優子さんも喜んでいたのではないだろうか。

啓子さんは前日の深夜まで抽出していたコーヒーを1杯1杯来場者に手渡しながら、思い出話に花を咲かせていた。

写真展示の奥の元校長室には、「土砂の中から見つかったたくさんの家族の思い出が、形として残ったことで救われた」という思いから写真撮影ブースが設けられた。

使われているのは、写真が好きだった優子さんが生前使っていたソニーのカメラ。

真衣子さんは「私たちのこれからの思い出は皆さんと作りたい。今日が私たちにとって今後の励みになる大切な1日なることは間違いない」と森家のトレードマークである「ハートマーク」で撮って欲しいと呼びかけた。

展示された写真でも伺い知ることができるが、森家の写真は実にハートフルでクスッと笑える写真が多く、そんな写真を撮る方も撮られる方も楽しんで残していきたいという思いが感じられた。

そして、トランペットを演奏する真衣子さんの側には5人で写った家族写真と亡くなった3人のそれぞれの遺影が置かれ、主役の2人の頑張りを、そばで見守っていた。

演奏会の直前、写真撮影ブースの呼び込みをしていた私に、真衣子さんから「インスタライブをお願いします」と手渡された、優子さんのスマホとジンバル。雲仙まで来られなかった人たちへも感謝を伝えたいということだった。

スマホを縦にできないまま、横画面でぎこちなく始まったインスタライブに映し出されたのは、元音楽室だった楽屋。トランペットを抱きしめたまま「緊張してます」と2回繰り返して、真衣子さんは深呼吸をしていた。

そして13時。演奏会は始まった。

冒頭、真衣子さんは、1年前の災害で3人の家族が見つかるまでの心境を明かしてくれた。さっきまで緊張していると話していた真衣子さんが嘘のように、しっかりとした口調で話し始めた。

「ちょうど1年前の今日、私たちの家族、父、母、姉は最後の1日を過ごしていました。私たちが当たり前に明日があると信じているように、何気ない毎日を過ごしていました。1年前の明日、3人は帰らぬ人となりました。家族全員揃うまでに10日間かかり、それまで私たちは待つことしかできませんでした」

雲仙を離れていた啓子さんと真衣子さんは雲仙に駆けつけても何もできなかった。想像はしていたが、遺族である真衣子さんの言葉に胸が張り裂けそうになった。

2人の代わりに、地元の消防団や警察、自衛隊が家族の捜索にあたり、住む家がなかった2人のために、必要なものを用意してくれ、優しい言葉をかけ、そして言葉をかけない優しさで見守った人たちがいた。

そんなすべての人に感謝を伝えたい。

演奏は、真衣子さんが、一度聴くと惚れ惚れするトランペットの曲で好きな「トランペットラブレター」で始まった。

「ありがとう」の感謝を込めて・・・続く。

(後半はこちらから→森さん家の演奏会②