6月16日は和菓子を食べて無病息災を願う「和菓子の日」。
この時期のお菓子屋さんには、梅や紫陽花などの涼しげな和菓子が並ぶ。
和菓子は日本特有の文化の1つ。
かつては生まれた時の出産祝いや亡くなった後の法要まで、人生の節目節目をそっと彩ってきた。
愛野から唐比に抜ける県道沿いにひっそりと佇む佐藤菓子店。
今では数少ない和菓子職人の店だ。
店を知ったきっかけは、職場へ向かう通勤でこの道を利用していた時だった。
どんなお菓子が並んでいるのだろうと暖簾をくぐると、季節の和菓子と焼き菓子がとても安価に販売されていた。あまりに安価だったので、採算は合うのか気になったほどだった。
「修行していた福岡や横浜の値段では、こちらでは売れない」と店主の佐藤広行さんは話す。
原料材料をどうにかやりくりし、技術料を極力抑えながらも、利益は出しているそう。
佐藤菓子店は饅頭屋から始まり、佐藤さんで3代目。福岡の老舗菓子会社の和菓子部門や横浜の名店で修行をして、30年ほど前に地元に戻ってきた。
以前ほど和菓子は売れなくなったが、今も茶道をしている団体やお祝いや法要のお返しなどでお菓子を作り続けている。諫早市にも近いため、近くの小学校の子供たちがお小遣いを持ってお菓子を買いに来るとか。
佐藤さんの作るお菓子といえば、やっぱり色とりどりの和菓子。
春の桃、夏の紫陽花、秋の栗など、季節ごとに小さなショーケースに宝石のように並ぶ。佐藤さんはできるだけ木型や機械を使わず、手間暇をかけて丁寧に1つ1つを作ることを心がけている。
佐藤さんは和菓子の魅力を「風味。見た目もだけど、小豆や栗など和菓子ならではの素材、旬の素材の風味を楽しめること。あとは季節感を感じられること」と話す。
和菓子はさまざまな工程と繊細な技術で作られる小さな芸術品なのだ。
しかし、最近は洋菓子が季節の催しやお祝い事で登場する機会が多い。和菓子を出すお菓子屋さんも減ってきた。個人的にとても気になっていた後継者のことや今後についてあえて聞いてみた。
「後継者はいないな。自分で終わる、その覚悟」。
と即答だった。そして、
「思い切った方向転換はできないから、今の状態のままで愛されるお菓子を作っていく。子供たちから『美味しかった』って言われると今は辞めるわけにはいかない。体が動かなくなるまで頑張りたい。惜しまれつつ辞めるのもいいかもしれないね」と笑って話した。
なんだかすごく、寂しくなった。そうか…そうなると佐藤さんの和菓子はとても貴重な逸品なのだな。
佐藤菓子店はいつか、幕を閉じる時が来る。
佐藤さんはお店を訪れる常連さんや子供たちなど、「美味しい」と言ってくれる目の前のお客様のために、これからも丁寧にお菓子を作り続けていく。
佐藤菓子店
- 住所:雲仙市愛野町乙9-4
- 電話:0957-36-2355
- 営業時間:7時〜19時
- 定休日:不定休
佐藤さんのお菓子は「なつかしお菓子」でも紹介しています。 こちらから
■参考文献) 本間美加子(2019)『日本の365日を愛おしむ ー毎日が輝く生活歴ー』 東方出版