「じゃがちゃん」
雲仙市が世界に誇るファーストフード。
雲仙市千々石町の「千々石観光センター」の看板商品の1つだ。
長崎県が北海道や鹿児島県に次ぐ生産量のじゃがいも。雲仙市特産でもある。
1度蒸して、小麦粉や砂糖、塩など8種類の原材料を混ぜた衣をつけて揚げる。サクッとカリッと音がしたあと、ホクホクのジャガイモに出会い、ひとたび食べると甘じょっぱいその味に誰もが虜になる。
じゃがちゃんは、地元特産のじゃがいもを使った名物ができないかと50年ほど前に誕生した。ほとんどが千々石観光センターが所有する畑で作られたじゃがいもだ。
ネーミングについて、千々石観光センターの2代目・山下直喜さんは「可愛らしさと語尾がピンと跳ね上がるように聞こえることから、これから伸びていくように、という期待を込めて先代がつけた」と話す。
週末を中心に雲仙市を訪れる人が必ずと言っていいほど、この食べ物を求めて千々石観光センターに立ち寄り、展望台から見える景色とともにじゃがちゃんを写した写真をSNSにアップする。
多い時は1日で3000本を売り上げ、平日でも行列ができる時もあるほどだ。
山下さんの話を聞いているとじゃがちゃんは「時代を映す鏡」だということがわかった。
千々石観光センターはじゃがちゃんはもちろん、カステラを自社で製造・販売しているほか、レストランやお土産も揃えていて、修学旅行や観光客が立ち寄る島原半島の重要なスポットになっている。
観光バスでいっぱいになり、駐車場にとめられなかった時もあったそうだ。
しかし、50年の歴史のなかで、じゃがちゃんは何度も危機を迎えたことがある。
1つは雲仙・普賢岳の噴火災害。
災害の時期にハウステンボスの開業で修学旅行の行き先が県北になり、流れが変わり、観光客が激減した。
その直後に発生した阪神大震災。
当時被害が大きかった地域が、衣に使っている小麦粉の製粉会社が多く、原材料が手に入らないなどで衣の配合から転換しなければならなかった。
山下さんは、「この時ばかりはどうしようかとバタバタした」と振り返った。
そして、最近では新型コロナウイルス。
再び、観光客が激減。普賢岳災害の時の比にならないほど、人が来なくなった。売り上げはピーク時の5分の1まで下がったそうだ。
だけど、今度はじゃがちゃんは観光センターを守る救世主となった。
支えたのはじゃがちゃんのファン。50年の歴史が多くのリピーターを作っていた。地元のお祭りへの出店やサッカーチームのスタジアムグルメとして幅広い世代に知られるようになり、土日を中心に個人客が訪れてじゃがちゃんを食べてくれたことで、千々石観光センターは首の皮一枚繋がった。
原材料の高騰などで、100円から200円、現在は250円と値上がりしている。それでもありがたいことにみんなが食べに来てくれる。
山下さんは「最近はやっと以前のように観光バスが止まるようになった。先々はまたどうなるかわからないが、この場所に食べに来てもらえるよう、味を変えないように守りつなげていきたい」と話す。
取材の合間に少し休憩しようと立ち寄った、千々石観光センター。
じゃがちゃんを食べていたら、同行していた熊本出身のフォトグラファーが「なんか・・・とてもいいですね・・・」とシャッターを切り始めた。彼の心を鷲掴みにし、急に取材に突入した。
店頭ではじゃがちゃんのファンだという音楽家が作曲したテーマソングが今日も流れている。
「じゃが じゃが じゃが みんなのじゃがちゃん♪」
耳から離れなくなる。
一瞬でみんなが恋する魅惑の食べ物。愛しきじゃがちゃん。