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雲仙温泉への思い 旅が尊いものに

2021年8月。長崎県はお盆前後を長雨が襲いました。特に雲仙岳では降り始めからの雨量が1300ミリ近くと、年間の総雨量の4割を記録しました。雲仙温泉街では複数の土砂崩れが発生し、長年雲仙温泉の観光に尽力してこられたご家族3人の尊い命が奪われ、大きな悲しみが広がりました。また、観光地である雲仙地獄や商店街近くにも土砂が流れ、経済にも大きな影響がでました。

「つむぐつなぐうんぜん」では、雲仙温泉街の3人の方にインタビューをし、雲仙温泉の今の思いを伝えたいと思います。

最終回、第3回は雲仙観光局理事の荒木美智子さんです。


【旅が尊いものに 雲仙観光局理事 荒木美智子さん】

雲仙温泉の観光名所・雲仙地獄。

「ぼこぼこぼこっ」 「シューシューシュー」 「ぴちぴちぴち」 「もくもくもく」

いろんな音と硫黄のにおい。約30の地獄から湧き出る高温の温泉と噴気に、大地の営みを体感できる場所だ。

雲仙地獄のほぼ中心に温泉たまごや雲仙レモネードなどを販売する休憩所がある。

「ありがとうございまーす。よい旅を!」

と元気な声で観光客を見送るのが荒木美智子さんだ。

※現在は木枠ガラスパーテーションで飛沫感染対策を行っています。

多いときは1日2000個を売り上げる温泉たまご。荒木さんはこの日も休みなく販売しては、卵を蒸す作業を繰り返していた。

「コロナの影響で1日90個しか売れないときもある。旅行会社の添乗員とかしてたけど、観光が、旅行がこんなになるなんて考えもしなかった」。

直接観光客と触れ合う荒木さんだから、観光の落ち込みを肌で感じていた。新型コロナウイルスの影響で、観光は全国的に打撃を受けている。雲仙温泉でも宿泊や修学旅行のキャンセルが続き、日帰りで帰ってしまう人が多いそうだ。

荒木さんは2022年1月に発足した雲仙観光局で理事を務める。雲仙観光局は雲仙市の観光、商工、農漁業などが集まり、連携し、そして魅力を磨き上げて、雲仙市へのファンを増やしていこうとする組織。(だと思っています) 観光や農業などで活躍する理事の中で数少ない女性理事の1人だ。

この休憩所の仕事はどうするのか荒木さんに尋ねると、

「ここは島原半島の観光窓口だと思ってる。毎日違う人と会えるのが楽しい。きっと理事の仕事にも活かせると思う。マーケティングになるけんね。カップルや家族連れが多い時間帯とか、他県でも山陰や北陸の人が多い時期とかあっておもしろいとよ」と話す。

温泉たまごを通してマーケティングする観光局理事。とてもかっこいい。

「コロナになって本当、旅って尊いものだとあらためて思って。想い出のところに行きたいし、なじみのところにも行きたいし、行ったことがないところにも行きたい。そういった気持ちがあって、雲仙に来てくれる人もいる。旅って尊いって」。

新型コロナによって、旅が簡単にできなくなった。それでも雲仙温泉には、長居はできなくても観光客が足を運んでくれる。どんな人にも想い出に残る旅にしてほしい。

「旅が尊いもの」になってしまったからこそ、荒木さんが心を込めて「よい旅を」と観光客に声をかける姿自体がとても尊くて仕方なかった。

※2019年12月に撮影したものです