誰にでも好きな場所だったり、1人になりたいときに訪れる場所ってきっとあると思う。私の場合は、「牧場の里あづま」だ。
小さい頃は遠足と言えばこの場所で、私たちは「はげ山」と呼んでいた。牛が放牧され、ゆっくり丘を歩いたり、草を食べたりする様子を見られるのどかな場所。30年ほど前に整備が進んだ記憶があり、広い駐車場に「万里の長城」と呼ばれる歩道、ブランコ、バーベキュー施設などが造られた。牛を見ながらバーベキューって…シュールだなぁといつも思う。
有明海と橘湾の2つの海や島原半島の付け根を見ることができる広大な景色を前に、亡くなった祖父はこの場所で読書をするのが好きだったと聞いていて、私も1人になりたいとき、ブランコに乗って、気分をリフレッシュさせている。
以前はギターやサックスの練習をする人に会ったことがある。開放的だし、周囲を気にせず練習できる絶好の場所なんだろうと思った。今では写真やアウトドアブームもあり、カメラを持った人やテントを張って楽しむ人も多いように思う。県内企業のテレビCMやお笑い芸人が番組で紹介したこともあって、訪れる人も増えたのかなと感じた。
人気になるのは嬉しいが、なんだかちょっと複雑。この場所はきっと誰かにとってもかけがえのない場所になっているのだ。
2021年の大晦日、最後の夕日をこの場所で鑑賞した。珍しく誰一人いない「はげ山」だった。ブランコは危険性があるとのことで使用禁止の札がかけられていた。残念、と肩を落とす私の事情なんて全く気にもしない牛たちのほのぼのとした雰囲気をぼーっと眺めながら、「丑年お疲れ様」とぼやいた。愛すべき場所「牧場の里あづま」。