2021年8月。長崎県はお盆前後を長雨が襲いました。特に雲仙岳では降り始めからの雨量が1300ミリ近くと、年間の総雨量の4割を記録しました。雲仙温泉街では複数の土砂崩れが発生し、長年雲仙温泉の観光に尽力してこられたご家族3人の尊い命が奪われ、大きな悲しみが広がりました。また、観光地である雲仙地獄や商店街近くにも土砂が流れ、経済にも大きな影響がでました。
「つむぐつなぐうんぜん」では、雲仙温泉街の3人の方にインタビューをし、雲仙温泉の今の思いを伝えたいと思います。
第2回は雲仙ロープウェイの本多浩二さんです。
【雲仙が元気だということを証明したい 雲仙ロープウェイ 本多浩二さん】
雲仙市の観光名所、雲仙・妙見岳では紅葉の季節を迎えた。
赤く色づくモミジやシロドウダンが、山肌を染め、特に西日があたる午後からの風景は息を飲むほどの絶景が広がる。仁田峠へ続く循環道路や駐車場の渋滞はもはや毎年の名物。それでも人は仁田峠を目指す。仁田峠から妙見岳をつなぐ雲仙ロープウェイでは、売上げの3分の1をこの時期がしめることから、雲仙の観光にとっても欠かせない時期に入ったことを意味する。
雲仙ロープウェイで長年働く本多浩二さんに話を聞きに行ったのは、9月の下旬だった。この日は、連休ということもあり、ひっきりなしにロープウェイの切符を買う人で溢れていた。本多さんにとっては嬉しい悲鳴だった。
「前に進むしかないんでね。うちも毎日営業して、営業してますよって、安心なんだという印象も与えたいと思うんだけど…」。
新型コロナウイルスは、雲仙の観光に大きな打撃だった。雲仙ロープウェイは今年の夏にかけて平日を休み、週末だけ営業をしていた時期もある。それも、会社を守り、社員を守り、雲仙の観光を守るためだと考えたからだ。
そして、8月の豪雨。自然の猛威は容赦なかった。
「雨もひどいし、八万地獄の土砂崩れもびっくり。衝撃的でもあったし、正直この会社も流れてるんじゃないか、秋のシーズンに向けてどうなるんだろうと一抹の不安もあった」。
約1週間の自宅待機後、雨が少しやんだ際に道路や官舎を見に行ったら、仁田峠付近は大きな被害もなくほっとしたそうだ。幸い登山道も大丈夫だった。
しかし、小地獄温泉の土砂崩れでは、雲仙の大切な仲間の行方がわからないままだった。雲仙の情報発信を担っていた彼女に「きょうは自宅待機になり、ロープウェイは運休です」とLINEを送った朝に、土砂崩れに巻き込まれたと連絡を受けた。
「彼女からは大きな宿題をもらった気がする」。
そう話して、今も既読にならないスマホの画面をながめた。
「あれだけ雲仙のために一生懸命頑張ってくれていたので、天国で『なんしよっと!』って言われないようにしていかないとと思ってる。安心してもらうにはみんなで協力して、お客さんに安心してきてもらえるようにしていかんば。後ろ向いておられんもんね。天国で安心して見てもらえることをするしかない」。
紅葉の時期が終わると、空気中の水蒸気が木に付着する霧氷が見られる季節になる。雲仙では「花ぼうろ」と呼ばれて親しまれている霧氷は、天候の条件があるため、見られると本当にラッキーな現象。霧氷を見て冷えた体を温泉に入って温める。雲仙の自然を感じるには最適な季節だと思う。
どんなに天候が私たちを脅かそうとも、紅葉は色づき、霧氷は木に付着して、私たちの目を楽しませ、自然の偉大さを教えてくれる。来年も再来年もきっと同じように季節を伝えてくれるだろう。本多さんは長崎県で一番空に近い場所で、雲仙が元気でいることを証明するため、きょうもたくさんの観光客を迎えてくれている。